掲載:2019年 No.36

透析医療の現場から 医療法人社団 豊済会 下落合クリニック
お話を伺った先生
菊地 勘先生

医療法人社団 豊済会 理事長
下落合クリニック 院長

菊地 勘 先生

1988年、杏林大学医学部卒業。2001年に東京女子医科大学への入局を経て、2009年から医療法人社団 豊済会 下落合クリニック院長に就任。2014年から、医療法人社団 豊済会 理事長。当院ではフットケアや感染症予防にさらに注力し、長期透析による合併症予防に取り組む。また菊地先生は、関東地域で災害時に透析患者さんをサポートする医療ネットワーク構築にも、中心となって携わっている。

長期的合併症を防ぐ取り組みを幅広く実践。
早期からきめ細かいフットケアも。

 透析治療において、最近特に注目されているのが「患者さんの高齢化」です。1980年代〜1990年代における透析患者さんの平均年齢は40〜50代と若いかったのですが、心脳血管疾患など急性期の病気で死亡することが多く、これをいかに予防・治療することで生命予後を改善させるかが課題でした。しかし近年は、透析導入年齢の平均は70歳と高齢化しており、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併する患者さんが増加しています。その一方で透析治療に使用する薬剤の進歩や透析技術そのものの進歩によって、生命予後が改善して、長期透析の患者さんが増えていることから、透析の長期化に伴うさまざまな合併症が問題となっています。
 この長期的合併症を防ぐ取り組みを早くから行っているのが、東京都新宿区にある「下落合クリニック」です。当院では、2016(平成28)年に下肢末梢動脈疾患指導管理加算が施工される前から、フットケアを取り入れています。フットケアとは、透析患者さん特有の足トラブルの予防・治療です。高齢化や糖尿病などで動脈硬化が進むと、血流不良が起こり、末梢の足の冷えやしびれ、痛みを感じるようになります。特に糖尿病性の障害で、視力が弱くなっている方は視界が悪く傷を作りやすくなったり、神経障害がある方は感覚が鈍くなり傷の発見が遅くなったりしますが、悪化すると潰瘍ができたり壊死することがあります。そのまま進行すると下肢切断に至る場合もあり、予防や早期発見が大変重要とされているのです。
 院長の菊地勘先生は「下肢切断になると歩行が難しくなり、予後(回復の見込み)が悪化します。患者さんのQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)に大きな影響を及ぼし、最終的には介護の問題にもつながっていきます。神経障害がある患者さんは痛みを感じにくかったり、高齢で体が硬くなりご自分の足の状態を確認できない方もいらっしゃいます。そのため、私たちが普段からきめ細かく診察をして足のトラブルを予防するように心がけています」と話します。

フットケア指導士
フットケア指導士が、患者さんの足の状態を確認。傷やむくみはないかなど、丁寧に観察する。

 当院の看護師は、フットケア指導士などの資格を持つ専門看護師です。新規や転院などの患者さんは必ず最初に菊地先生が診察し、その後は看護師が中心となり、患者さんの状態に合わせて目視や最新の機器を用いて足の状態をチェックしケアを行います。
 まずは傷などがないか足全体を観察し、タコがあれば削る処置をします。透析患者さんで血流障害がある場合、タコができると同じところに潰瘍ができやすいので、特に注意が必要だと言います。「タコは通常、足の裏にできると思われがちですが、患者さんによってまったく異なります。例えば歩行器などを使って歩いている患者さんの場合、足の引きずっている部分にタコができやすくなるのです。その方のライフスタイルや習慣などをしっかり観察したりよくお話を聞いたりしていないと、見逃してしまう可能性もありますし指導もできません。私たちは、患者さんとできるだけコミュニケーションをはかり、治療とはまったく関係のない趣味や日常の話もしながら、問題や悩みなどがないか知るように心がけています」と菊地先生。こうした取り組みは患者さんやご家族との信頼関係にもつながり、安心して治療に臨める支えにもなっています。

徹底した衛生管理で、感染症を予防。
栄養指導の面からも患者さんの体力・免疫の低下を防ぐ。

 当院では、感染症予防にも力を入れています。透析患者さんにとって感染症に注意が必要な理由は、「慢性腎不全そのものによる免疫の低下があること」、「糖尿病や高齢の患者さんが大部分であり、これに伴う免疫の低下があること」「透析患者さん特有の慢性炎症と関連した栄養状態低下による免疫の低下があること」、などが挙げられます。

 透析患者さんは、送迎車や更衣室、待合室など、透析室に入室する前に多くの空間を共有しており、飛沫感染症や接触感染症にかかりやすい環境にあります。インフルエンザやノロウイルス対策としては、患者さんが発熱や下痢などの症状が自宅で出た時点で、すぐに当院へ電話連絡をしてもらいます。そして送迎バスではなく他の交通手段で個別に通院してもらい、他の患者さんと導線が交わらないよう更衣や入室をしてもらい、隔離された空間での透析治療を行います。こうして他の患者さんとの接触を避け、インフルエンザやノロウイルスが広がるのを防いでいるのです。また、「日常的に看護師はフェイスシールドマスク(目の保護用シール付きマスク)やグローブ、医療用エプロン・ガウンを着用し、これらは1人の患者さんの1回の処置ごとに必ず取り換えます。これにより、血液媒介感染症や接触感染症が伝番することを防ぐと同時に、スタッフの感染予防にも努めています。1日中同じものを使い続けることはありません」と菊地先生は話します。


(右)感染症予防のため、フェイスシールドマスクやガウン(エプロン)、グローブは必ず着用。1回の処置ごとに交換する。(左)最新機器で足の血流を検査。器具と肌が直接触れないように徹底。

 また、感染対策には低栄養の予防が重要です。常勤の管理栄養士が個々の患者さんに適した栄養指導を行います。例えば、リンは摂りすぎると血管の石灰化につながりますが、これを食事だけで制限すると低栄養の原因になります。どちらも予後は悪化するため、制限しすぎないことが大切です。そのため菊地先生は、しっかり食べてきちんと透析をし、その上で透析でも取り切れないリンやカリウムについては、薬でコントロールするのをおすすめしています。
 こうした感染症予防などをはじめ透析治療や日常生活について、当院では患者さんやそのご家族への指導も重要だと考えています。「どのような症状が見られたら、医師・スタッフに伝えなければならないか」を患者さんやご家族に伝えています。

 また一方で医療者も、普段から患者さんにとって相談しやすい関係づくりを心がけています。「医師に話しにくいことでも、看護師になら話せることもあると思います。医療者全員が役割を持ちながら連携し、それぞれの情報を全員で共有することで、患者さんからの信号を拾いこぼさないようにしています。いわゆる“チーム医療”ですね」。その重要性を学び共有するために、当院では毎月の勉強会を行っていますし、年に1回は当院(下落合クリニック)と関連の2施設(境南クリニック・ときわクリニック)のスタッフ全員が参加する勉強会を行っています。診療の指針となるガイドラインもありますが、菊地先生は個々人の患者さんによって年齢やライフスタイル、合併症の有無や種類などがまったく異なるため、実際の治療方針も変わってくると言います。「患者さん一人ひとりをしっかり見て接していれば、その方に合った治療法が自ずからわかります。私たちは患者さんに、透析をしているからとネガティブに考えたり諦めるのではなく、ぜひ思い切り人生を楽しんでほしいと思っています。そのサポートを、これからもしていきたいですね」。

定期的に健診や家族面談を行っている当施設

受付・待合スペース

(右)車いすでも楽に移動できる、広々としたエントランスと受付。(左)明るく清潔な透析室。当院では、長期透析による合併症予防のためにも、透析導入時から患者さんに、オンラインHDFをすすめている。スタッフの皆さんの温かな声掛けが印象的。

過去の災害を教訓に、
災害時の医療ネットワークを構築。

菊地先生
透析治療をはじめ、透析患者さんの災害医療などについて、年間約60回もの講演を全国で行っている菊地先生。「日本は災害が多い国だからこそ、対策は必要。いろんな方法で啓蒙を続けていきたいです」。

 菊地先生には、現在新たに取り組んでいることがあります。阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験から、東京やその近郊での災害時に透析患者さんをサポートする東京都区部災害時透析医療ネットワークの代表世話人をしています。過去の災害では、施設ごとの被災状況がわからず情報不足に悩んだからです。被災時には、登録された医師の携帯電話やパソコンから施設の被災状況や透析の可否といった情報を閲覧できるツールを、東京都臨床工学技士会、東京都透析医会とともに作成しています。利用者は地図とともにその情報を確認できるので、どの施設を利用できるかひと目でわかります。事前に貯水タンクの有無など施設の設備情報も登録できるので、災害時に確保が急がれる水や電気の状況把握や供給の際にも役立ちます。「医療ネットワークの構築は、いざという時に必要なもので、誰かがやらなければならない仕事だと思っています。患者さんの命と健康を守るためにも、続けていきたいですね」と菊地先生は今後の目標を語ってくださいました。

お問い合わせ

医療法人社団 豊済会 下落合クリニック

医療法人社団 豊済会
下落合クリニック

〒161-0033
東京都新宿区下落合2-1-6
TEL 03-3953-1711
https://shimoochiai-clinic.jp/

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