2010年 東京散歩

ー コラム「梅」:梅一輪 一輪ほどの暖かさ ー

昔は花見というと桜ではなく梅を見に行くことでした。あたりいちめんほのかに春の香りが漂い、清楚な花が春の息吹を知らせてくれます。人々は、まだ寒い頃、ほころび始める可憐な花に待ち遠しい春への気持ちをこめていたのでしょうか、梅は古代から現代まで、日本人の暮らしに深く根づいて来ました。

現代では梅をシンボルとする市町村も数多くありますが、その端正な花は天平文化の時代から文様として使われてきました。写実的に梅の花を表現した『梅花紋』、より幾何学的に図案化した『梅鉢紋』など、現在でも100種以上の図案が家紋や、和服や食器、手ぬぐいなどのデザインに使われています。

梅 梅

梅干し、梅酒、梅酢やジャムなど、食用としても日本人には馴染みのある梅の原産は中国です。奈良時代に遣唐使が持ち帰ったものが広まったといわれますが、当時は梅の薬効に注目されていました。漢方薬では燻蒸して真っ黒になった実を烏梅(うばい)といい健胃、整腸、駆虫、止血、強心作用があるとされていますし、食べ物が傷まないようにおにぎりに入れたり、その殺菌力は誰でもが知っています。

愛でるのも、食するのも、しばらくは高貴な人だけに許されていた梅も、江戸時代になると次第に庶民に広がっていきました。そのせいか梅のことわざも数多くあります。例えば、「塩梅よく」というのは 物事の具合が良いことを言いますが、もともとは梅酢が料理の味を引き立てるのに使われていたことからきています。

「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」と服部嵐雪が詠んだように、梅の花が一輪また一輪と咲くにつれて、気候も少しずつ暖かさを増していきます。そう、春はもうすぐそこ。可憐な花を見に出かけ、心も身体もリフレッシュさせてはいかがでしょう。

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