豊かな水が育んだ風光と歴史
日光 水の郷をゆく

掲載:2012年 vol.11

京都・平安文化の香り

2012年11月、世界遺産条約が採択されて40周年になります。
そこで今回は、国内における世界遺産の一つ「日光東照宮」が鎮座する日光にスポットを当て、中でも豊かな「水」にまつわる史跡などをご紹介します。

竜頭の滝
華厳の滝、湯滝とともに奥日光名瀑の一つとされる滝。湯ノ湖から流れ出た湯川が、中禅寺湖に注ぐ手前にあり、210メートルにわたって流れ落ちている。滝壺近くが大きな岩によって二分されており、その様子が竜の頭に似ていることから、この名がついたと言われる。秋には紅葉が美しい。

 「日光」という地名は、男体山の元の呼び名である二荒山を「ニコウザン」と音読みし、日光という文字を当てたのが由来とされています。「日光を見ずしてけっこうと言うなかれ」という言葉があるように、日光には見どころが数多く点在。史跡はもちろん、何より驚くのは、その水と緑の豊かさです。「日光四十八滝」「七十二滝」という呼び方が残っているほど滝が多く、中でも日本三大名瀑にも数えられる華厳の滝は特に有名です。
 日光は市内だけで実に2,000メートル以上の標高差があり、雨がよく降ります。十分な水分と栄養分が必要な杉が美しい並木で残るのも、雨量が豊富な日光ならではの景色と言えるでしょう。
 かつて松尾芭蕉は、日光東照宮を訪れた際「あらたふと 青葉若葉の 日の光」という句を残しました。この地の鮮やかな緑は、俳聖の心をも深く感動させたようです。

清らかな水が育んだ
日光の信仰と食文化

 日光を代表する史跡であり、世界遺産にも登録された日光東照宮。ここには、国内で初めて、社寺として境内に独立設置したと言われる「御水屋」があります。御水屋とは、参拝者が手と口を清める場所。かつては自然の川や湧水の場が、それにあたりました。幅1.2メートル、長さ2.6メートル、高さ1メートルの花崗岩の水盤は、くり抜いた15センチの穴からサイフォンの原理で水が噴き上がる仕組みになっています。屋根の下には、逆巻く波と飛竜の彫刻が。飛竜は翼のある竜で、水を司る霊獣とされています。
 日光東照宮から、「神様が進む道」と言われる上新道を進むと、二荒山神社に着きます。ここは、神がおられる山として古くから敬われてきた霊峰二荒山(男体山)を祀る神社です。日本人は古来、天高くそびえ、雨や雪、雷などの自然現象を起こし、命の源である大切な水を恵んでくれる高い山に、神の存在を信じてきました。二荒山神社は、その山岳信仰の象徴と言えます。神苑には清らかな清水をたたえた二荒霊泉があり、眼病に効く霊験があるとされる「薬師霊泉」と、銘酒ができると言われる「酒の泉」の2つの名水を引いています。神社には県内外の醸造元40数社が集まって作った「酒泉講」という崇敬組織があり、境内に代表銘柄の化粧樽が奉納されています。

日光東照宮:1617年に徳川二代将軍秀忠が創建した、徳川家康の霊廟。三大将軍家光が行った「寛永の大造替」で、現在のような豪華絢爛な姿に。境内には国宝・重要文化財の建造物が数多くあり、1999年には世界遺産に登録。荘厳な雰囲気で、海外からの見物人も多い。

日光東照宮
1617年に徳川二代将軍秀忠が創建した、徳川家康の霊廟。三大将軍家光が行った「寛永の大造替」で、現在のような豪華絢爛な姿に。境内には国宝・重要文化財の建造物が数多くあり、1999年には世界遺産に登録。荘厳な雰囲気で、海外からの見物人も多い。

二荒山神社:奈良時代の末、勝道(しょうどう)上人が二荒山の神霊を祀るために社殿を建てたのが始まり。重要文化財に指定されている建造物も多い。夫婦杉や親子杉など、信仰を集める御神木があり、数百年前にひととき思いを馳せることができる。

二荒山神社
奈良時代の末、勝道(しょうどう)上人が二荒山の神霊を祀るために社殿を建てたのが始まり。重要文化財に指定されている建造物も多い。夫婦杉や親子杉など、信仰を集める御神木があり、数百年前にひととき思いを馳せることができる。

御水屋:日光東照宮にある御水所。参拝の前に、手や口を清める。水は澄んで美しく、暑い季節も肌に染みるように冷たい。
御水屋:日光東照宮にある御水所。参拝の前に、手や口を清める。水は澄んで美しく、暑い季節も肌に染みるように冷たい。

御水屋
日光東照宮にある御水所。参拝の前に、手や口を清める。水は澄んで美しく、暑い季節も肌に染みるように冷たい。

日光東照宮美術館横〈権現水〉:日本画壇の巨匠・横山大観が手がけた「朝陽之図」など数多くの逸品を鑑賞できる、近代和風建築の美術館横には、日光の名水「権現水」が湧き出る。

日光東照宮美術館横〈権現水〉
日本画壇の巨匠・横山大観が手がけた「朝陽之図」など数多くの逸品を鑑賞できる、近代和風建築の美術館横には、日光の名水「権現水」が湧き出る。

二荒山神社の境内に並ぶ、酒造メーカーの献酒樽。

二荒山神社の境内に並ぶ、酒造メーカーの献酒樽。

二荒霊泉:眼病に効くとされる「薬師霊泉」と、銘酒の泉「酒の泉」を引く。

二荒霊泉
眼病に効くとされる「薬師霊泉」と、銘酒の泉「酒の泉」を引く。

下新道:日光東照宮と二荒山神社を結ぶ下新道。手入れの行き届いた杉や楓の緑がすがすがしい。秋には紅葉も美しい。

下新道
日光東照宮と二荒山神社を結ぶ下新道。手入れの行き届いた杉や楓の緑がすがすがしい。秋には紅葉も美しい。

酒・蕎麦・茶
暮らしを豊かにする水

 清らかに澄んだ豊かな日光の水は、人々の生活も潤してきました。かつては、山々の育んだ水が石造りの地下水道を通って各家庭へと引かれており、今も一部の地域で「石升の水道」として、その名残をとどめています。この水は、無色透明で飲料に適した硬度であったことから、関東の茶道家にもよく好まれました。現在も自宅の前に「石升の水道」が残るお宅では、水でお茶の味が変わると言い、ごく最近まで来客時には必ずこの水でお茶を煎れていたそうです。
 また、水が味を大きく左右すると言われる蕎麦も、古くから日光で名物とされてきました。もともと名産であった蕎麦の実と、日光連山からのおいしい水を使って打つ蕎麦は、香り豊かな味わいが人気です。他にも、冬の間に時間をかけて作られる天然の氷は、透明感のある澄んだ味とやさしい口溶けで、夏のかき氷などに好んで用いられます。

石升の水道:1915年に、浄光寺の参道に設置された簡易水道。自然石の外側を丸く削り、内側を升状にえぐり、自然分流が起こるようになっている。栓を抜くと、冷たい清水が勢い良く出てくる。

石升の水道
1915年に、浄光寺の参道に設置された簡易水道。自然石の外側を丸く削り、内側を升状にえぐり、自然分流が起こるようになっている。栓を抜くと、冷たい清水が勢い良く出てくる。

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