教えてドクター

第4回 骨の健康について

坂井瑠実 先生

腎臓は、身体の中のリンとカルシウムのバランスに、大きな役割を果たしています。その異常は骨の健康を損ない、さらに動脈硬化を進め心不全の危険を高めるなど、生命予後に大きく影響します。骨の健康を維持するために、透析を受けている方は何に注意すべきか、ドクターにわかりやすく教えてもらいます。

骨の異常

骨がもろくなってしまうのはどうしてでしょうか。
二次性副甲状腺機能亢進症はどうして起こる?

 腎不全など腎臓病の患者さんが骨折しやすくなるのは、カルシウムを腸から血液中に吸収する役割を果たす活性型ビタミンDを腎臓で作ることができなくなるのが原因です。血液中のカルシウムの値が低下すると、副甲状腺ホルモンが分泌されて、骨からカルシウムを取り出し、血液中に補おうとしますから、骨がもろくなってしまうのです。
 加えて、腎不全になると、血液中のリンを尿中に排泄できなくなり、その結果、血液中のリンの値が上昇します。リンとカルシウムが骨以外の場所に沈着するのを防ぐために、身体が血液中のカルシウム値を下げるように調節をし、カルシウムの値は低下します。そうすると、ここでもまた副甲状腺ホルモンが分泌されて、骨から分解したカルシウムを血液中に補おうとしますから、骨がますますもろくなります。
 この骨の異常を防ぐには、腸からのカルシウム吸収を活性化し、血液中のカルシウム値を上げるために、活性型ビタミンDを薬で補う必要があります。

リンとカルシウムのコントロール

循環器の合併症には、塩分・水分の管理が大切です。

 カルシウムは細胞の機能維持に不可欠な成分で、体内のカルシウムの99%が骨と歯に含まれています。リンも細胞の構成成分として、また活動エネルギーの運び屋として欠かせない成分で、85%が骨と歯に含まれています。昔から、腎臓病の患者さんが骨折することはよくありましたが、それは体内のリンとカルシウムのバランスがコントロールできなくなるのが原因でした。
 本来、血液中のカルシウムは副甲状腺ホルモンによって調節され、カルシウムの数値が正常に戻れば、ホルモンは分泌されませんが、腎疾患による二次性副甲状腺機能亢進症になると、リンやカルシウムの数値が高くても、骨からさらにカルシウムを取り出すよう指令が出て、骨がもろくなるとともに、いろんな部分にカルシウム沈着が起きます。ですから、透析を受けている方にとって、リンとカルシウムのコントロールが大事なのです。

異所性石灰化という言葉をしばしば耳にしますがどういう状態でしょうか。

 体内のリンやカルシウムは、ほとんどが骨や歯に含まれています。しかし、血液中のリン、カルシウムの値が高くなると、血液中に溶けきれなくなり、関節の周辺や筋肉、皮膚、眼(結膜)、血管、肺などの臓器に沈着して、硬い骨のようになります。このように骨や歯以外の異所にリンやカルシウムがたまることを、異所性石灰化と言います。
 皮膚や筋肉、眼に石灰化が生じると、皮膚が痒い、筋肉や関節が痛い、眼が充血して痛むといった症状出ます。昔は肺の石灰化も多く、結核と間違えられるケースもありました。やっかいなのは血管の石灰化です。血管に石灰化が起きると、血管が詰まりやすくなり、動脈硬化を引き起こします。そして、それが悪化すると、心筋梗塞、脳血管障害、手足の壊疽(えそ)といった、生命に影響する深刻な事態となる可能性もあります。
 最近は、血管や心臓の弁膜以外のカルシウム沈着は、十分な透析を行えば、除去できるようになりました。しかし、血管と心臓弁膜のカルシウム沈着は、きれいに取る方法が今のところありません。心不全など心臓の合併症や血管系の疾患には注意してください。

リンとカルシウムの異常

リン、カルシウムのバランスが崩れると、どんな症状が出ますか。

 カルシウムが高くなると、痒みがひどくなるほかに、イライラするとか、眠れないといった症状が出ることがあります。しかし、私たちがいちばん心配するのは、不整脈、高血圧、動脈硬化など、カルシウム沈着を原因とする循環器系の疾患です。逆に、カルシウムが低くなると、主に末梢神経の刺激による筋収縮によって生じる、テタニーと呼ばれるけいれんが起き、手足がしびれたり、つるという症状が現れます。
 リンの値が高いときは、高カルシウムのときよりひどい痒みや痛みが出ることがあります。ただ、リンの場合、よほど数値が高くならない限り、自覚症状は何もありません。それだけに、気がついたときには大変なことになっているケースがあります。リンの数値が高ければ高いほど、生命予後は悪くなりますから、リンを多く含むタンパク質などの摂取には注意が必要です。

リンとカルシウムを調節するには?

十分な透析、食事療法、薬による調節など、いろんな方法がありますね。
リンの吸着薬の歴史

 そのとおりです。骨を健康に保つには、またカルシウム沈着を防ぐためには、リンとカルシウムのコントロールが大切です。リンは多くの食品に含まれており、特に美味しいタンパク質に多く含まれていますから、リンの蓄積を避けるには、リンをあまり含まないタンパク質の摂取が必要です。ただし、タンパク質不足による栄養失調には気をつけてください。
 また、リン吸着薬を使ってコントロールすることも必要だと考えています。リン吸着薬は摂取しすぎたリンを除去するための薬です。70年代からリンの吸着薬はありましたが、最近ではリンの吸着力の強い炭酸ランタンといった非カルシウム系のリン吸着薬でコントロールするようにしています。前号でもお話ししましたが、炭酸ランタンのおかげで副甲状腺摘出術の症例はほとんどなくなっています。
 また、腸からのカルシウム吸収を促し、骨の代謝を良くするために、活性型ビタミンDの内服製剤や注射剤も使いますが、血液中のカルシウム上昇に注意する必要があります。
 医師と相談しながら、「慢性腎臓病に対する食事療法基準」などを参考に、リンとカルシウムの摂取量をコントロールすることも大切です。

在宅血液透析

自宅でできる透析について教えてください。

 リンやカルシウムをコントロールし、骨を健康に保つためには、十分な透析を行うことも必要ですが、最近は在宅血液透析といって、自宅で自分で透析を行う人が増えています。施設で何の問題もなく透析を行っている方であれば、例えば透析の針を刺すとき簡単で痛くない穿刺方法の練習などを少しトレーニングをすれば、在宅血液透析ができます。在宅血液透析は夜、眠っている間に行うことができますから、長時間透析が可能ですし、日常生活において、透析に時間を取られるという感覚もなくなります。
 在宅血液透析は、みなさんが主体的に透析を行うことができ、「自分の命を自分で守ることができる、ありがたい方法だ」と言われた方もいらっしゃいます。透析の時間を長くして、ゆっくり透析を行えば、生命予後は明らかに改善されることがわかっていますから、私は在宅血液透析をお勧めしています。実際、在宅血液透析は増える方向にあります。

坂井 瑠実 先生

坂井瑠実クリニック理事長
医学博士。内科・腎臓・糖尿病・人工臓器各学会に所属。腎臓学会指導医、透析医学会指導医。岐阜県立医科大学卒業後、神戸大学医学部第2内科入局、腎臓グループに所属。腎友会病院院長、住吉川病院院長を経て1998年、坂井瑠実クリニック開設。

坂井 瑠実 先生

過去の記事を見る

ページトップへ