教えてドクター

第2回 合併症について

坂井瑠実 先生

透析を受けている方のなかには、さまざまな合併症に苦しまれている方がいます。「腎臓が働いていないんだから、仕方がない」と、あきらめてはいませんか? 透析を受けている方が元気で、生き生きとした毎日を送ることができるよう、透析医療は日々進歩しています。合併症について最新の情報を、ドクターに分かりやすく教えてもらいます。

合併症とは

透析を受けていることによっておこる合併症にはどんなものがありますか。

 どんな合併症がおこるかというのは、どんな透析をしているかによります。しかし前回も話したように、「透析の合併症」というのは誤りで、正しくは「透析不足による合併症」といえるでしょう。腎臓の肩代わりがきちんとおこなわれていないということですから、十分な透析を受けていれば、合併症の心配は少なくなります。とはいっても、まだまだ長時間透析は普及しておらず、透析不足による合併症は減っていないのが現状です。
 透析中におこる身体の変化も合併症のひとつです。血圧の低下や、足のつり、吐き気や頭痛などがありますが、これらは除水や尿毒素を抜くことで一時的に身体のバランスが崩れることでおこります。
 また、長年透析を続けているうちに見られるようになる合併症もあります。顔の色が黒くなるとか、かゆみ、足がイライラする、神経痛や低血圧、頭がすっきりしない、眠れない、ぴくつきがあるなど、いろいろな症状があげられます。  透析では、尿で排せつされない水分や尿毒素を除去したり、リンやカリウムなどの電解質のバランスをとったりするわけですが、透析不足が長く続くと、身体に異常が出てくるのです。つまり、これらの症状は、時間をかけてゆっくりと十分な透析をおこなうことで、かなり防ぐことができます。

最近の合併症

今、一番問題となっている合併症はなんですか。
透析不足からおこる合併症

 合併症をひきおこす一番の悪者といえば、ちょっと前まではリンでした。ここ20年くらいの透析膜の改良で透析効率が良くなり、食事制限が緩くなりました。良く食べるようになって、リンによる合併症が増えたのです。骨がもろくなり、風邪をひいてせきをしただけで肋骨が折れた人や、血管にカルシウムが沈着して血流が悪くなり、足を切断することになった人もいます。
 十分に透析をすればリンはかなり除去することが可能ですが、週3回4時間の透析では、リンの値はどうしても高くなってしまいます。そのためリンが多く含まれるタンパク質を制限しなければならず、それを続けた結果として、最近では一番の合併症は栄養障害だといわれています。

栄養障害は、生命予後に影響はありますか。

 栄養障害の原因としては、「食べなければデータがよい」ために、長期にわたり食べる量を減らした食生活を続けたり、塩分や水分を制限したあじけない食事のせいで食欲がなくなり、食事の量が少なくなってしまったりすることがあげられます。  30年以上も透析をしてきて、食事の量が少なく管理がうまくいっていた人のなかには、やせていて、合併症をたくさん持っている方がいます。皮肉なことですが、食事管理が良くできている人ほど、長期になると栄養障害になり、免疫力も低い身体になってしまうんですね。それではクォリティ・オブ・ライフ(QOL)がよいとはいえませんし、生命予後にも大きく影響します。

リンの管理と栄養管理を両立することはできないのでしょうか。

 身体を作るのに不可欠なたんぱく質を、リンの値が上がるばっかりに抑えなくてはならないというのは、大きな矛盾です。牛乳はダメですよ、卵はダメですよといった、普通だったら身体を作るためによいといわれているものが、全部ダメじゃないですか。タンパク質を制限しなくてはならないような食事制限というのは、ほかの病気にはありません。
 実は、長年透析をしている人のなかで、いつも食べ過ぎてしまい、しかたがないから透析時間を延長したという人たちが、今とても元気 なんです。しっかり食べて、透析の量が多かった人は予後が良いのです。
 やはりたんぱく質はあまり制限せず、摂取しなければなりません。しかも食事というのは生命を保つというだけでなく、いろいろな面でも生きる糧ですから、せめて家族と同じくらいのものが食べられなければいけないと思います。
 食事療法と透析の関係は、「しっかり食べて、充分透析」です。食べても、透析の時間を延ばしたり、回数を増やして、しっかり透析をすればよいのです。
 しかし、どうしても短時間で透析したい、週3回4時間がよいという人もいます。何かの都合で長時間透析の時間が取れないときや、また外食でリンが高いものを食べ過ぎたなどというときは、リンを除去する薬を使います。

透析の基準

合併症をおこさない透析量というのは、どのように決めたらよいのでしょうか?

 現在、透析量を決める基準を何にするかが問題となっています。たとえば透析量を決めるための基準に※クレアチニンの値がありま す。クレアチニンというのは運動するときのエネルギー源ですから、よく食べてよく運動し筋肉量が多い人は高く、小食であまり運動をせず小柄な人は低いんです。クレアチニンが低いからといって、尿が出なければ毒素はいっぱいです。最近の統計調査でクレアチニンが高いほど生命予後が良いという結果も出ていますから、クレアチニンを基準に透析量を決めるのはおかしいでしょう。
 透析量の基準にはさまざまな案がありますが、私自身はいろいろな合併症の症状、かゆみや貧血、高血圧などを基準にするのがよいと思っています。食欲がない、元気がない、眠れないといった尿毒症の症状があれば、それは透析が不足していると思って間違いありません。合併症がおきているかどうか一番良く分かるのはデータではなく、顔色とか元気さとかなんですよ。
 合併症がでないような十分な透析をおこなっていれば、透析は全然危ないものじゃないと思います。もっと大変な病気もあるのに、透析を受けている方の生命予後が健常人の半分というのは残念です。充分透析すればリセットされて、生命予後もいいというのは、データでも証明されているんですから。

※筋肉に含まれるクレアチンという物質が、筋肉を動かしたときに分解されてできる物質のこと。クレアチニンは腎臓より尿中に排泄されるため、クレアチニンの血中濃度が腎機能の指標として使われています。

坂井 瑠実 先生

坂井瑠実クリニック理事長
医学博士。内科・腎臓・糖尿病・人工臓器各学会に所属。
腎臓学会指導医、透析医学会指導医。
岐阜県立医科大学卒業後、神戸大学医学部第2内科入局、腎臓グループに所属。腎友会病院院長、住吉川病院院長を経て1998年、坂井瑠実クリニック開設。

坂井 瑠実 先生

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