教えてドクター

第1回 透析について

坂井瑠実 先生

かつて透析は延命治療でした。
しかし今では30年、40年以上も透析を受けながら過ごす方が増えています。
これからの人生、透析のことをよく知って、よりよい生活を送りたいものです。
そこで、今、透析医療はどうなっているのか、最新の情報をドクターに分かりやすく教えてもらいます。

長時間透析の必要性

日本で行われている血液透析では、週3日、1回4時間というのが標準的時間ですが、これはどのように決まったのでしょうか。

 私が医者になった頃は、尿毒症は100%死ぬ病気でした。43年前、人工腎臓が導入されましたが、今から考えるととても幼稚な透析機器で、研究と治療が同時に進行していました。しばらくするとどのくらい透析をすればよいかということが分かってきました。それが週3回6時間でした。しかし、これは命に関わらない最低のラインで、厳密な食事療法が不可欠でした。その後、透析の膜や機械がよくなって、週3回6時間の透析量を週3回5時間でできるようになり、さらに最近では週3回4時間でできるようになりました。
 つまり週3回4時間というのは、30年以上も前の危うさを抱えたままなのです。もちろん膜がよくなり、いろいろなことが進歩はしていますが、30年前の基準が、今も変わっていないというのは問題です。

週3回4時間というのは、見直したほうがいいということですか。
透析時間と生命予後

 そのとおりです。今の透析室では、あちらこちらに血圧が下がり処置している人がいるのが普通です。高血圧で血圧の薬を飲んでいる人でも、透析中に血圧が下がるので昇圧剤を処置したりしています。塩分制限が一番大事といいながら、足がつったり、ショックになると、塩分を注射したりします。まったく矛盾する治療をしなくてはならない状況で、なんとか日常を過ごしているのです。
 腎臓は1日24時間、1週間では168時間働いていて、その代わりを週12時間の透析でするというのは無理があります。まず尿がでなくなっているのですから、水分を抜かなくてはなりません。そして尿毒素を除去する。それからリンやカリウムなどの電解質のバランスをとることも必要です。これらを効率よく短時間で行おうとすると、人間の身体はついていけないのです。

どうして週3回4時間では、そのような問題が起きるのでしょう。

 特に水分の除去ということでは、昔は若い方が多かったので、時間除水が少し多くても大丈夫でした。ところが最近は年配の方や糖尿病や、動脈硬化のつよい方も増えています。若い人と同じような速度で除水すると、すぐに血管内で脱水を起こし、血圧が下がったり、足の筋肉が痙攣を起こしたりします。除水はゆっくり行わなければなりません。
 透析中にいろいろな処置を行ったとしても、血圧が下がって動けなくなったり、家に帰ってからもしばらく横になって休まなければならないなど、さまざまな好ましくない症状が生じます。これらの症状はゆっくり透析をすれば、防ぐことができるのです。
 同じ透析量でも時間をかければ楽ですし、家に帰って寝るくらいだったら、透析時間を少し延ばせば、送迎をしてもらわなくても、元気に歩いて、買い物もして帰れます。送迎に頼らず自力で通院すれば日常生活に必要な筋力もつくので、毎日の生活も楽になるはずです。

透析時間は長いほうが身体に優しいというのは分かりましたが、透析時間を短くして回数を多くする、たとえば隔日透析はどうなのでしょうか。

 透析を受けている方が亡くなるのは月曜日か火曜日だといわれています。土日と2日空きがあるわけですから、危険が増すのは当然です。そこで2 日空かないようにするのが隔日透析です。
 実は大切なのは、透析の回数や長さではなく、どのくらいの透析を行ったか、透析量なのです。
 今、日本では週3回6時間以上の透析のことを長時間透析というようになってきていますが、7時間、8時間とさらに長時間の人も増えています。同時に透析の回数を増やす人も増えています。私は、在宅透析を導入して、寝ている間に透析をするとか、短時間でも毎日透析するのがよいと思っています。

長時間透析の問題点

長時間透析や隔日透析には問題になるようなことはないのですか。

 ひとつは4時間の透析でも苦しいのに、これ以上の透析は無理だと考えている方が大勢いることです。「4時間だと血圧が下がるけど、3時間半までは何ともないから、3時間半にしてくれないか」という人がいます。でも私は「4時間がつらいなら、せめて30 分延ばしてください」と答えます。「騙されたと思って3ヵ月やってみてください」と。3ヵ月たつと、身体が楽になりますから、今度は自分から、「透析時間を延ばしたい」といってくるようになるんです。
 もうひとつの問題は、長時間透析に対応できない透析施設がまだ多いということです。医療者側は、どんな透析を提供することが利用者のクォリティ・オブ・ライフ(QOL)に貢献するのかをじっくりと検討することが必要でしょう。
 しかし、何といっても長時間透析の最大の問題点は拘束時間が長いことです。透析を受けている方のQOLの最たることは、透析時間を短くすることだと思います。
 しかし透析中に命に関わるようなことが起こってはいけません。長年透析を続けることで合併症が起こるような医療をやっていてもいけません。実は「透析の合併症」といいますけど、正しくは「透析不足による合併症」なんです。

「透析不足による合併症」ならば、充分に透析をすると合併症は起こらないのですか。

 そのとおりです。時間をかけてゆっくりと透析をすれば、透析中に具合が悪くなることはありません。透析が終わってもすぐに行動することができます。
 そのうえ充分に尿毒素を除去できるので、長年続けても合併症はほとんど起こりません。長時間透析をしている人はみな、「認知機能とか頭の回転がよくなり、とてもよく仕事ができるようになる」といいます。それと「夜よく眠れるようになった」という人も多いです。
 大切なのは、その人その人に合わせて危険なことが何も起こらない透析状態をつくることです。一人ひとりで条件を変えることが必要となります。
 そうすれば無症状に透析ができるのですから、透析中に他のことをすることが可能です。苦痛もなく、危険もない透析なら、日常生活のなかでしなくてはいけないこと、仕事や趣味などをしながら、透析をすることが可能になります。オーバーナイト透析をする施設も出てきていますから、寝ているあいだに透析をすることだって可能です。寝ている時間を使うと、昼間フルに仕事ができますし、忘年会に参加するなどということも夢ではありません。

長時間透析で薬は減らせる

長時間透析をする場合に飲まなければならない薬はどんなものでしょうか。

 ほとんどの薬が透析不足の症状を取り除くために服用しているものですから、透析不足を解消すれば、薬は減ります。
 まず透析中ですが、何の薬も使わずに無症状の透析ができるようになります。透析中に血圧が下がるなどということはありません。
 さらに長時間透析を続けていると、身体のなかに毒素が残りませんから、さまざまな合併症も改善し、必要に応じて薬を飲めばよいだけになります。
 たとえばリンの吸着剤なら、週3回4時間の透析をしている人なら毎食後。長時間透析をしている人でも、土日で2日空くときはもちろん、自分の体調に合わせて飲 んだほうがよいでしょう。家族と食事に行ってステーキを食べたなんていうときには、飲まなくてはなりません。

透析にもいろいろなやり方があるのですね。

 そのとおりです。どんな透析を受けるかは、自分の生活スタイルに合わせて選択していけばよいのです。希望があればぜひ主治医に相談してみてください。
 たとえば腹膜透析はゆっくりした透析で、寝ている間でも、昼間でも、透析をしながら普通に生活できるので、選択する人が増えています。しかし残念なことに腹膜の透析能力は少なく、残腎機能がなくなると合併症を持つ危険があります。だから腎機能が残っている初期の段階では腹膜透析を導入し、残存腎機能が落ちてきたら血液透析と併用し、そのあいだにトレーニングして在宅血液透析に移行していくというのがよいと、私は思っています。

坂井 瑠実 先生

坂井瑠実クリニック理事長
医学博士。内科・腎臓・糖尿病・人工臓器各学会に所属。
腎臓学会指導医、透析医学会指導医。
岐阜県立医科大学卒業後、神戸大学医学部第2内科入局、腎臓グループに所属。腎友会病院院長、住吉川病院院長を経て1998年、坂井瑠実クリニック開設。

坂井 瑠実 先生

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