忠臣蔵の魅力を読み解く

掲載:2010年 冬 vol.05

元禄15年12月14日(1703年1月30日)は、大石内蔵助ひきいる赤穂浪士が本所吉良邸に討入りを果たした日。
この時期、ゆかりの泉岳寺では義士祭が催されるほか、各地でさまざまな関連作品が上演・放映されます。
今なおファンの多い「忠臣蔵」。なぜこれほどまでに日本人に愛されるのか?
事件を取り巻く人々に思いを寄せつつ、「忠臣蔵」の魅力をひもといてゆきましょう。
文:梅原 満

Point2

気になる登場人物の視点で物語を楽しむ
多彩な群像劇としての
「忠臣蔵」の面白さ

明治23年(1890)5月 歌舞伎座『実録忠臣蔵』
明治23年(1890)5月 歌舞伎座『実録忠臣蔵』より。劇聖と謳われた九代目市川團十郎が大石内蔵助を演じています。座頭格の役者だけが演ずることを許される、最も難しい役のひとつです。『実録忠臣蔵 洛陽加茂川堤上の場』 応需 香朝楼筆([3]歌川 国貞)

 「忠臣蔵」は、単純な仇討ちの物語でもなければ、“ 義 ” に生きた男たちだけの物語でもありません。ちょうど大河ドラマのように、多彩な人間模様が織りなす群像劇といったらよいでしょうか。
 たとえば大石内蔵助などは、こんな上司がいたら面白いと思わせる魅力を放っていますし、四十七士だって「人気者 堀部安兵衛」「武闘派 不破数右衛門」「風流な文化人 大高源五」「憎めない粗忽者武林唯七」などなど、実にキャラの立つ人が多い。吉良上野介や柳沢吉保にしたって「いるいる、こんなヤツ」と思わせてくれる強烈な個性の持ち主として描かれています。
 そして、何より忘れてはならないのは、事件によっていやおうなく人生を狂わされてゆく一介の藩士や家族、女性たちの物語。たとえば歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』にいたっては、幕ごとに顔世 (かほよ) 御前、戸無瀬 (となせ)、小浪、おかる、石などのヒロインたちが続々登場し、物語に奥深い陰影を与えているのです。260年も前に、庶民がそんな物語を作り、楽しんでいたとは日本人としてちょっと誇らしいですよね。
 お気に入りの登場人物の視点で物語を追いかける。忠臣蔵にはそんな楽しみ方が詰まっています。

『 おれの足音 ー 大石内蔵助 』

『おれの足音 — 大石内蔵助』(上・下)
池波正太郎著 文春文庫
剣術は不得手な昼行灯だが、女性のこととなると行動は迅速。鷹揚な好人物でありながら、腹に一物ある。極めて人間的な大石内蔵助像を時代小説・劇作の名手が描く。

『 瑤泉院 ー 忠臣蔵の首謀者・浅野阿久利 』

『 瑤泉院 — 忠臣蔵の首謀者・浅野阿久利 』
湯川裕光著 新潮文庫
討入りに影響力を発揮したのは、美しき浅野内匠頭の正室であったという想定のもと、未亡人浅野阿久利(瑤泉院)を主人公に事件を描く。

Point3

物語の核心にあるのは人間のドラマ
これからも、きっと愛され続ける
日本人の心に響く物語り「忠臣蔵」

 日本人はなぜ「忠臣蔵」が好きなのか?きっとその答えは容易には出せないし、ひとつの理由だけではないのかもしれません。最近では、吉良の立場や、討入りに参加できなかった浪士を描くなど、新たな視点や同時代性を盛り込んだ作品も多くなりました。
 この冬、公開される『最後の忠臣蔵』も、ヒーローになれなかった浪士たちのその後を描く、なかなかに見応えのある作品です。
 封建社会の江戸と現代を単純に比較することはできませんが、赤穂藩士は泰平の世を生きる、いわばサラリーマンであり、彼らの平穏な日々に訪れた主君の刃傷事件は、まさに青天の霹靂だったはず。  私たちの日常だって、経営者の不正や業績悪化などによって、誰しもがいとも簡単に “ 浪士 ” となってしまいかねない時代です。有為転変 (ういてんぺん) の世の中で不運に見舞われたとき、「自分 はいかに生き、愛する人をいかに守るか」という想いだけは、きっと昔も今も変わらないでしょう。
 歴史的事件に心動かされた庶民が育み、連綿と紡いできた物語「忠臣蔵」。
 ひょっとすると、そこには人間の “ 業 ” を肯定しし、“ 宿命” を潔く受け入れる、日本人特有の感性や共有感覚が潜んでいるのかもしれません。

『裏表忠臣蔵』

『裏表忠臣蔵』
小林信彦著 新潮文庫
討入りは、虐殺あるいはどたばたの喜劇ではないのか?ひょんなことから上杉家のスパイになった菓子屋の息子の視点で描く、ウイットに満ちた忠臣蔵の世界。

『吉良供養 上・下』

『吉良供養 上・下』
杉浦日向子著
作品集『 ゑひもせす 新訂版(アクションコミックス)』双葉社 集録
江戸物の作品にあふれんばかりの才能を発揮した著者が、吉良方の視点で描く討入りの夜の顛末。「“大義” が殊更物々しく持出される時人が大勢死ぬ」という言葉にはっとさせられる。

映画『 最後の忠臣蔵 』

映画『 最後の忠臣蔵 』
討入り後、密かに逐電し、浪士の家族を見舞う命を負った寺坂吉右衞門と、討入り前夜に出奔し、大石内蔵助の忘れ形見、可音(かね)を育て上げた瀬尾孫左衛門。討入りから16年、死ぬことを許されなかった2人の男の過酷な人生を描く、忠臣蔵の外伝ものです。
12月18日(土)より全国ロードショー
ワーナー・ブラザース映画 www.chushingura.jp

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