透析を受けながら活躍する人々

掲載:2010年 春 vol.03

小林茂さん

スクリーンに浮かんだ
まだ見ぬ映像を追い求めて

小林 茂さん

映画監督

1954年生まれ。透析歴3年。2002年に脳梗塞で倒れ、治療をしながら撮影した長編ドキュメンタリー映画『わたしの季節』が、2004年度の文化庁映画大賞、毎日映画コンクール記録文化映画賞などを受賞。2009年、腎不全を抱えながら、ケニアのストリートチルドレンの生きざまを描いた『チョコラ!』を劇場公開。現在、全国で自主上映中。近日DVD発売予定。
URL:http://www.chokora.jp/
お問い合わせ:配給・東風 TEL:03-5155-4362

病気を抱えケニアで撮影

『チョコラ!』ポスター

 『チョコラ!』の撮影の話がきたのは2005年。前作『わたしの季節』のクランクイン直前に腎不全から脳梗塞で倒れ、腎臓に爆弾を抱えているような状況だったので、透析になる前に行かなきゃと大急ぎで準備をし、ケニアに向かいました。当時は透析のことがよくわかっていなかったから、多少透析が早まってもいいやと考えてたんです。何かあった時にすぐに透析に入れるよう、シャントの手術を出発前にしておくことが医師の出した条件でした。
 ケニアでは朝4時に起床して、ストリートに暮らす子どもたちを追う日々。多発性嚢胞腎で血尿が2週間ぐらい止まらないことが3回あったから、しんどかったんでしょうね。でも精神的に高揚しているので、気分はいいんです。数値も安定していて、ケニアの医師に「ケニアが合っている」と言われたほどで。
 5ヵ月間の撮影を終え帰国し、これから編集という時、体に違和感を覚え、透析に入りました。導入から最初の1ヵ月は大変だと聞いてはいましたが、思っていた以上に苦しみましたね。無理がたたってか、何度か嚢胞腎の感染症にもかかり、長く入院もしました。

映画を作ることで希望をつなぐ

 透析に生かされていることは理解しているんですけど、慣れてくると透析前の体に戻ったと勘違いしてつい無理をしてしまいます。でも体は前のようには動かないからイライラが募る。透析4年目になりますが、その繰り返し。これがこれから先も一生続くのかと思うと、今でも時々落ち込むことはあります。
 そんな僕の希望は、やっぱり映画です。『チョコラ!』を撮り終わった時、体もしんどいし、映画はこれで最後だと覚悟しました。でもある時、ふと白いスクリーンにまだ見ぬ映像が浮かんできたんです。次回作にしたいと思っているのがそれなんですけど、その時「映画を作ろう」と決心しました。そう思ったとたん、希望が見えてきたんです。

人生はやじろべえのようなもの

小林 茂さん

 脳梗塞で倒れた時、『わたしの季節』という重症心身障害児の映画を撮っていましたが、倒れて初めて、障害のある人を「どうしてやったらいいか」と上からの目線で見ていたことに気づきました。ケニアで出会った子どもは、僕の病気がよくなるようにとお祈りしてくれまし た。心配しているのは僕のほうだという自負があったんですが、とんでもない、心配してくれていたのは彼らのほうだった。だから、『わたしの季節』にも『チョコラ!』にも、病気になって感じたさまざまな思いが投影されています。健康なまま撮っていたら、まったく違う映画になっていたと思います。
 人生は「やじろべえ」だと思うんです。安定していれば水平を保つけれど、負荷がかかると左右に揺れる。僕にとって負荷とは透析や脳梗塞。下がったほうばかりに気をとられていると負荷は大きくなるけど、ふと目を転じれば、もう一方はあがっているんです。そのあがっている部分に、今まで気づかなかった何かが凝縮されているんじゃないかと。僕は表現者として、その何かをこれからも追求していきたいと思っています。

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